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(日蓮宗新聞 平成18年4月10日号 2面 論説) 記事

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脳科学に霊性[れいせい]を解明できるのか

 脳科学の進歩は目覚しい。手や足を動かす中枢は脳の中のどこにあるのか、視覚や聴覚の中枢はどこにあるのかといった、運動や感覚の中枢に関する研究はもとより、記憶の中枢、喜怒哀楽といった感情の中枢についても、さらには人間の性格や宗教的な法悦感さえも、脳の局所の機能、あるいはホログラフィックな理論で解明しようとする研究が進められている。「法悦感」さえもである。
 そして科学的研究の必然的な果実としてその先にあるものは、脳をコントロールする技術の開発である。
 脳科学が人間の心の領域を解明しつつあり、かつ実際に技術的に応用されていることの一例を上げると、最近、脳の一部の「帯状膝下野(Cg25)」と呼ばれる部位が気分の調節に深く関わっていることが分かった。この部位の活動が高まると気分が落ち込み、うつ状態になるというのである。実際、機能的神経画像検査法によって、難治性のうつ病患者ではこの部位の代謝が過剰になっていることが分かった。そこで、この部分に電極を埋め込み、慢性的な刺激を与えることによって、うつ病を改善することができた。つまり、脳の一部分を電極で刺激することによって、うつうつとした気分を明るく快活に変えることができたのである。
 遺伝子に関する知見も日々進歩している。血友病や筋ジストロフィーが遺伝子と関係した疾患であることが明らかになってきたように、精神疾患や認知症といったいわゆる「心」の病気の中にも、脳に発現する遺伝子の変異が原因で起こる病気があることが分かってきた。こうした研究の過程で、人間の性格や行動といったものも遺伝子の働きではないかという考えが生まれ、研究が進められている。
 人間の能力や行動なども含めてすべてが遺伝子によって決定されているという「遺伝子決定論」を唱えている人もいるが、本当に人間の精神の分野まで遺伝子だけで説明できるのかというと、それは極論にすぎる。教育や経験といった環境因子の重要性は決して無視できない。
 脳科学や遺伝子工学のもたらす知見に呆然と感心している間に、我々の宗教心さえもがコントロールされかねない危険性をはらんでいるのであるから、重々注意を払って監視していなければならない。「イニシエーション」や「マインド・コントロール」といった言葉は今でも死語ではない。薬物や技術でコントロールしうるような宗教心があるとすれば、それは少なくとも仏教の真理とは程遠いものだと考えなければならないが、座視してはいられない。
 科学的に解明されつつあるのは私たちの広く深い「心」のごく表面的な部分に過ぎないということを忘れてはならない。そうでないと、科学的な説明で、あたかも私たちの心のすべてが解明されてしまうのではないかと誤解してしまう。私たちの心は決してそのような浅薄なものではない。脳波として記録される電気的な波動や、CT、MRI、PETなどによって画像的に捉えられる脳の活動は、大海の表面のごくわずかな波紋でしかない。
 いずれにしろ、科学は目覚しい勢いで脳の機能を解明しようとしている。科学が宗教的霊性の領域に足を踏み入れようとしているとき、私たちは私たち釈尊の門下の依って立つ霊性の何たるかについて、科学的知見を参照しつつ、それと対峙する形で考究を深めなければならない。少なくとも私たち自身が、科学が霊性を語ることに恐れをなして、霊性を科学に近づけてしまってはならない。宗門の行と学の英知を集めた研究が求められている。
(論説委員・柴田寛彦)
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