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生老病死と向き合う あなたのそばに
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日蓮宗新聞 令和7年5月20日号
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ため込み症
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精神科医・太田喜久子
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病理の理解と手助けで
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死にたくなりドアノブに紐を掛けたという40代の男性が病院に来ました。話を聞くと、父親が寝た切り状態で10年間入院し、本人1人で月に1回入院費の支払いと面会をしに行く生活をしているとのことでした。薄汚れた衣類に、手入れせず長く伸びた髪の毛がニット帽子からはみ出て、顎髭も伸びていました。この数年、仕事への意欲低下が続き、自宅はごみ屋敷だと元気のない声で語りました。
まもなく父親の死が伝えられました。自宅を訪問すると大きな一軒家ですが、家中に溢れたゴミの山で足の踏み場もなく、父親の遺骨が入った骨壷が棚の隅に置かれていました。トイレは糞便とチリ紙が山のように積まれ、風呂は黒いカビが生えていました。玄関前にはクモの巣がかかった車が置いてありました。職員が何日もかけて掃除をしましたが、本人はただ見ているだけでした。
対人関係の乏しい人生だったそうです。父を頼りに引きこもりから脱して働くようになったその男性でしたが、父の入院で心的エネルギーが低くなりました。日常生活が停滞する背景には、本人に発達障がいの傾向や、うつ病の発症があったのです。
ごみ屋敷は認知症などさまざまな疾患でも見られますが、最近「ため込み症」と病名がつきました。奇妙なため込み状態は情緒的愛着の喪失が所有物へ向くことから出てくるのです。症例の多くは1人暮らしで、かたづけをするにはその病理を理解した人の手助けが必要となります。
ごみ屋敷には多くの課題がありますが、それを脱する初めの1歩は、人が人との関わりを始めることにあります。それがあって次へ進むことができるのです。
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(日蓮宗ビハーラ・ネットワーク会員)
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